娘の花嫁姿に「きれい」と言った盲目の母 戦後の広島で5児育て上げ

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百田梨花を抱いて笑顔を見せる曽祖母の福地トメ子＝広島市で2001年5月ごろ撮影

　その手は、しわしわだけど、温かかった。曽祖母の手の感触を、私（百田）はよく覚えている。被爆時にガラス片が両目に刺さり、失明した福地トメ子。2013年、94歳で亡くなったが、生前、両手で私の頭から鼻、耳、頰、あごまでをゆっくりと触り、「べっぴんさんじゃねえ」と言ってくれたものだった。

　被爆した曽祖母の人生をたどった記者の深掘り記事を2部構成でお届けします。
　前編　「なんで目が見えんの?」沈黙した曽祖母　ひ孫が迫る80年前の夏
　後編　娘の花嫁姿に「きれい」と言った盲目の母　戦後の広島で5児育て上げ
　後編では、5児の育児に奔走した曽祖母の日常や写真家・土門拳の撮影に応じた思いを紹介します。

　私の両親が共働きだったため、幼少時は近所にあった曽祖母の家によく預けられた。一緒に外を歩く時は幼い私が手を引いたこともあった。トメ子はよくラジオを聴いていた。夏が近づき、ラジオやテレビで原爆のニュースが流れると、「原爆を思い出すけん、夏は嫌い」と言っていた。

　トメ子の戦後は、苦労の連続だった。

　原爆投下の翌年に次女の美津枝を産んだが、おっぱいを飲ませるにも美津枝の口がどこにあるかさえ分からない。幼い長男の勝弘と長女の和子が「もうちょっと右、左」と口の位置を教えた。

　何とか乳首をくわえさせてもすぐに外れ、美津枝は泣きじゃくった。トメ子は一日中授乳にかかりきりになることもあった。勝弘と和子はおむつを替えるタイミングを教えたり、手を引いて一緒に買い物に行ったりして、母を助けた。

　かまどでご飯を炊く際も、トメ子は火が見えず、前髪や眉毛をよく焦がした。家具や柱に体をぶつけてあざをつくることもしょっちゅうあった。そんな時、トメ子は「原爆がなければ……。目が見えていれば……」と、ぶつかった家具などをたたいた。

　美津枝を産んだ後、さらに2人を授かり、5児の母になった。周囲に「目が見えんのに子どもをつくって何を考えているのか」と言われたこともあった。運動会などの学校行事に熱心に足を運び、「足音だけでも聞きたい」と耳を澄ませた。しかし子どもが活躍する姿を見られない悔しさがこみ上げ、涙がこぼれた。

　夫の勝美も爆心地から約2・9キロで被爆した。戦後に鮮魚店を開いたが、やがて体調を崩し、満足に働けなくなった。トメ子は32歳の時、マッサージの国家資格を取るために盲学校に入った。

　生後間もない次男を背負い、当時4歳の三女を連れ、約7キロ離れた学校にバスで通った。トメ子はバス停の砂地に行き先を指で書き、同じ文字を表示したバスが来たら言うように三女に教えた。だが幼い三女が文字を判別できるはずもなく、バスを何本も乗り過ごし、半日たっても学校に着けない日があった…